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東京地方裁判所 平成8年(ワ)21482号 判決 1997年10月15日

主文

一  被告武宮正旺(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、別紙建物目録記載一ないし三の各建物を収去して、同土地目録記載一ないし三の各土地を明け渡せ。

二  被告武宮正旺(反訴原告)及び被告アバロン商事株式会社は、原告(反訴被告)に対し、別紙土地目録記載四の土地及び同建物目録記載四の建物を明け渡せ。

三  被告武宮正旺(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、平成八年四月一日から別紙土地目録記載一ないし四の各土地の明渡済みまで年四一三二万一一一四円の割合による金員を支払え。

四  反訴原告(被告武宮正旺)の請求を棄却する。

五  参加人の独立当事者参加の申出を却下する。

六  訴訟費用は、本訴反訴参加申立事件を通じて五〇分し、その一を参加人の負担とし、その五を被告アバロン商事株式会社の負担とし、その余は被告武宮正旺(反訴原告)の負担とする。

七  この判決は、第一ないし第三項につき、仮に執行することができる。

理由

一  まず、参加人の本件参加申出の適否について判断する。

1  参加人の本件独立当事者参加の申出が民事訴訟法七一条前段によるものか同条後段によるものかは明らかではないが、仮に同条前段によるものだとすると、本条は詐害的馴合い的訴訟の防止をその趣旨とするところ、本件においては、原告及び被告らがその間の訴訟を通じて参加人を害する意思を有していると認めるに足りる証拠がないから、本条の要件を充たさない。次に、本件参加申出が、仮に同条後段によるものだとすると、本条は、訴訟の目的である権利関係が自己に帰属し、又はその上に自己が権利を有する場合で、参加人の請求が本訴原告の請求と論理的に両立し得ない関係にあることを要件とするところ、本件においては、原告と被告武宮の間の契約は、後記認定のとおり、賃貸借契約であり、参加人の請求と本訴原告の請求は、論理的に両立し得ない関係にある場合にあたらないと解されるから、経営委託契約を前提とする参加人の本件独立当事者参加の申出は、不適法なものとして、これを却下すべきものと言わなければならない。

2  しかしながら、参加人は、予備的に、被告を補助するため、同法六四条による補助参加の申出をも為しているところ、参加人は、原告と被告との間の訴訟の結果につき利害関係を有する第三者に該当することはこれを認めることができるから、参加人の補助参加の申出は有効であり、したがって、参加人が本件訴訟でなした訴訟行為は、被告の補助参加人としてなしたものとして扱うこととする。

二  経営委託契約の終了に基づく本訴主位的請求について

1  原告と被告武宮との間で、昭和四九年三月六日、本件土地一ないし三について、被告武宮の利用に供する旨の契約が締結されたことは、当事者間に争いがなく、その際、甲第三号証が作成された。しかし、右契約が経営委託契約であるか賃貸借契約であるかについて争いがあるので、右契約の法的性質について検討する。

2  成立に争いのない甲第三号証によれば、右契約の証書として作成された同号証では、その標題が「乗馬学校経営委託契約書」となっており、また、その内容も、文言上から、右契約は、賃貸借ではなく、経営委託契約であるかのように見える。

しかしながら、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告武宮は、昭和二四年ころ、英国人ケンリック・ダグラス・ムーア夫人(以下「ケンリック」という。)と共同で杉並区永福町に乗馬クラブを開設し、昭和二八年ころ、現原告所有のゴルフ場のクラブハウスの敷地である世田谷区玉堤一丁目二四番地にこれを移転し、同地においてクラブハウス、厩舎、その他の施設を整え、乗馬七頭を保有して同クラブを経営していた。

昭和三二年一〇月上旬、被告武宮は、原告の当時の代表取締役である五島昇から、「東急ゴルフ場の運営上必要なので乗馬クラブの敷地を売却してほしい。」との申入れを受け、同月二一日、ケンリックとの共同経営を打ち切り、ケンリックはその所有の同土地を一四五〇万八〇〇〇円で、被告武宮はその所有の事務所、馬房等土地上の設備の一切を合計五〇〇万円で原告に売却した。

(二)  被告武宮は、原告から、その代替地として、同人所有の本件土地一(6)及び三を、被告武宮の乗馬クラブ経営のために使用させてもらうこととなり、右設備等を原告の費用で移築し(これの一部が本件建物四である。)、これも含めて原告はその使用を認め、昭和三三年五月一日、契約書を作成した。被告武宮の経営する乗馬学校には、「東急アバロン乗馬学校」との名称が付されたが、これは、同校の宣伝のための広告を原告に無償で出してもらうため、原告の経営する乗馬学校であるとの体裁を整えるために必要であったからである。その後、乗馬学校の経営がうまくいかず、原告は、自己が経営する乗馬学校であると誤解されるのを恐れたことから、被告武宮との間で、昭和四三年八月一六日、「被告武宮は、その営業の名称に東京急行、東急、その他原告の営業と誤認されるおそれのある名称を使用してはならない。」との合意をし(甲九の契約書第二条)、被告武宮は、以後、乗馬学校の名称から「東急」の文字を削除した。

(三)  昭和三四年末ころまでに、原告は、本件土地二を第三者から取得し、同土地も被告武宮との右契約の対象に含めることを合意した。

昭和三五年から三七年にかけて、原告は、本件土地一(1)ないし(5)を日本道路公団から交換により取得し(なお、本件土地一(5)については、手続上取得時期が平成六年三月一六日となっているが、実質的な取得時期は、昭和三七年である。)、また、本件土地四を売買により取得し、同各土地も被告武宮との右契約の対象に含めることを合意した。

(四)  当初の契約において、被告武宮は、原告に対し、「委託営業料」との名目で、初年度無料、次年度月額一〇〇万円、三年度以降月額一五〇万円を支払うことと定められたが、度重なる不払いにより、原告と被告武宮との間で、昭和三七年七月一日、既経過分の「委託営業料」を大幅に減額する(月額六〇万円)ため、前記甲第五号証の契約を解約して、新規に契約を締結し、昭和四三年六月三〇日には、右甲第六号証の契約を合意解約して「アバロン乗馬学校返還に関する契約」を締結して、立退期限を昭和四五年六月三〇日まで猶予することとし、昭和四八年一二月一三日、被告武宮が、右甲第九号証の立退約定に違反したため、経営委託継続確認の覚書を締結し、昭和四九年三月六日、原告と被告武宮との間の契約関係を明確にするため、本件契約である「乗馬学校経営委託契約」を締結した。

(五)  本件契約上、被告武宮の営業について原告が指示を与える権限はなく、実際上も、被告武宮は、本件土地の占有使用開始の当初から、原告から経営に関して指示を受けることも、原告に対して会計報告をすることもなく、被告武宮の計算においてアバロン乗馬学校の経営の一切を行ってきていた。また、営業利益の分配等の定めもなく、営業成績に関係なく、一定額を月々支払うこととされていた。

ただし、実際は、経営が思わしくないことから支払が滞っていたが、原告の都合によって被告武宮が本件土地を使用することになったといういきさつ等の理由から、原告の取り計らいで、支払の減免が繰り返されていた。

3  原告は、前記の契約書上「経営委託契約」となっているところから、本訴主位的請求として経営委託契約の終了を主張しているが、その実質は、賃貸借契約と理解しても一向に構わない旨弁論兼和解期日において度々述べていた。

4  以上によれば、原告と被告武宮との間の契約において、乗馬学校の経営に関し、原告の所有する本件土地及び同土地上の施設を利用する関係にあることから、原告において名目的かつ若干の権限を有していたものの、原告はその営業上の指示等の権限を有しておらず、実際上も右営業については、被告武宮が独自の計算において行っており、営業上の損益もすべて被告武宮に帰属していたものである。そして、被告武宮は、本件土地建物の利用に関して、その対価としての金員の支払の負担を負ってるに過ぎない。

これらの点に鑑みれば、原告と被告武宮との間に締結された前記契約は、原告において、被告武宮から一定額の金員の支払を受ける対価として、乗馬学校経営のため本件土地を被告武宮に使用収益させることを目的とする契約であり、右契約は、その実体から見て、原告と被告との間の本件土地についての賃貸借契約であると解するのが相当である。

したがって、経営委託契約であることを前提とした本件契約の終了に基づく原告の主張は、理由がない。

三  賃貸借契約の終了に基づく本訴予備的請求について

1  本訴請求原因2(予備的請求原因)(一)、(二)及び(四)の各事実は、当事者間に争いがない。また、同(三)(1)<1>の解約通知があったことについては、《証拠略》によってこれを認める。

2  本件賃貸借契約について、原告は、解約による期間満了を主張し、被告らは建物所有目的であるとして借地法の適用を主張するので、本件契約が建物所有目的であるかを検討する。

前記二の2で認定した各事実及び《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告武宮が本件土地を乗馬学校として利用し始めた昭和三三年ころは、本件土地上には、原告の所有する事務所と馬房が存在するのみであり、被告武宮は、それらの施設を本件土地とともに利用することができるにすぎなかった。また、本件賃貸借契約締結時である昭和四九年三月六日当時に至っても、本件土地上には、建物として原告所有の事務所と馬房が存在するほかは、馬房の西側に物置らしい小屋が設置されているのみであった。そして、本件賃貸借契約書には、本件土地、右事務所、馬房等を被告武宮において使用することができる旨定められているが、建物の所有を目的とする旨の定めは一切ない。

(二)  被告武宮は、昭和五〇年ころから、衛生上の必要性及び付近住民の理解を得ること等を理由に、「仮設厩舎」の改造・改築等を申し出るようになり、原告の承諾を得て、被告武宮の費用において本件建物一ないし三を建築し、所有するにいたった。原告所有の施設の改築の費用を、被告武宮が負担することになったのは、契約当初より、賃料の滞納の事実があったために、原告が改築費用を負担した上で、その分を以後の賃料に加算して被告武宮から回収するという通常の形態をとることができないという事情があったからである。

また、右改築にあたり、被告武宮は、原告に対し、いずれも原告の要請により直ちに解体、撤去する旨を確約した。

(三)  本件土地一ないし四の面積は、合計七四一七・二三平方メートルであるところ、そのうち本件建物一ないし三の占める床面積は、合計してもわずか一二七三・一八平方メートルにとどまり、その多くは厩舎・馬房である。

(四)  本件賃貸借の賃料は、平成七年四月一日当時、年額二二〇〇万円であり、後記五で認定した本件土地の公租公課に比しても、極めて低廉であるばかりではなく、いわゆる権利金等の授受もない。

3  右認定の事実によれば、本件土地賃貸借の主たる目的は、本件土地を馬場として使用することにあり、被告武宮において、本件建物一ないし三を建築所有したとしても、それは、本件土地自体を馬場として使用するための従たる目的に過ぎないから、本件土地賃貸借は借地法一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」賃貸借には該当しないものというべきである。また、原告は、被告武宮が乗馬学校を経営するため、もともとは原告が設置した本件土地上の馬房等の施設を、被告武宮において改築することを承諾したものの、これはあくまでも本来の賃貸借の目的に付随する最小限度の設備の改築・所有を容認していたにとどまり、その目的を超え、建物所有を主たる目的とすることまでをも容認したものとは解されず、もとより当初の賃貸借契約が建物所有を目的とするものであったと認めるベき事情とみることはできない。

この点確かに、《証拠略》によれば、昭和五六年当時、原告側で、本件土地につき被告武宮の借地権が成立しているのではないかとの議論があったことが窺われるが、右は当時相談を受けた弁護士の見解に拠るものにすぎず、本件賃貸借契約の性質を決定づけるものではない。

以上より、本件土地の賃貸借が借地法の適用のある建物所有を目的とするものであるとの被告の主張は採用できず、本件賃貸借契約は、原告が被告武宮に対し、平成二年四月三日に解約通知したことにより、平成五年三月三一日をもって、終了したというべきである。

四  本訴請求の趣旨第二項について

1  本訴請求原因3(一)及び(二)のうち、被告武宮が本件土地四及び本件建物四を占有していることは、当事者間に争いがない。

2  そこで、被告アバロンが右土地建物を占有しているかを検討するに、《証拠略》によれば、被告アバロン設立の発端は、全国的に乗馬による事故により治療費・入院費をクラブ側が負担する例が多くなりつつあることに対処するため、賠償責任保険付騎乗者障害保険を各クラブにおいて取り扱うこととなったが、保険代理店は法人である方が好都合であったことから、被告武宮においてアバロン乗馬学校の営業に付随する保険業務を処理するため、昭和四九年二月一日に被告アバロンを設立したことが認められ、また、被告アバロンがアバロン乗馬学校と事実上一体のものであること、被告アバロンの本店所在地が本件土地所在地である「東京都世田谷区《番地略》」に昭和六二年七月二九日付で設立の登記がされたことは被告らの認めるところであって、右事実を前提とすると、被告アバロンは、被告武宮とともに本件土地四及び本件建物四を占有しているものとみるのが相当である。

3  そこで、被告武宮の占有権原の抗弁について検討する。

本件土地一ないし三について、原告と被告武宮との間に賃貸借契約が成立し、右契約に基づいて、右各土地を引渡したことは、当事者間に争いがなく、前記二の2の(二)、(三)で認定した各事実及び《証拠略》を総合すれば、本件土地四及び本件建物四についても、右賃貸借契約の対象となっていることが認められる。しかしながら、前記認定のとおり、被告らの主張する建物所有目的が認められない以上、被告武宮の占有権原は、本件契約の解約により終了しているので、被告武宮の右主張は、理由がない。

また、被告アバロンについては、そもそも占有権原の主張がない。

五  本訴請求の趣旨第三項(損害金)について

被告らの本件土地の占有により原告が被った損害について検討する。

《証拠略》によれば、本件土地一ないし四の公租公課は、平成六年度分が固定資産税年額一〇二九万二三〇〇円、都市計画税年額二二二万二四〇〇円、地価税年額八一四万五八五七円の合計二〇六六万〇五五七円であることが認められる。右土地の使用料相当損害金は、少なくとも平成六年度の土地公租公課の二倍である年額四一三二万一一一四円を下らないと認めるのが相当である。以上の損害額は、被告武宮が日本道路公団から賃借している世田谷区《番地略》の高架下の土地等約一四三三平方メートルの賃料年額約九七一万円に比較しても割安となっており、高額すぎることはない。

六  反訴請求について

前記認定のとおり、原告と被告武宮との間の本件土地についての賃貸借契約は、建物所有を目的とするものではないから、被告武宮の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

七  以上によれば、原告の本訴請求は、すべて理由があるからこれを認容し、反訴原告の請求は、理由がないからこれを失当として棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤 康 裁判官 西口 元 裁判官 池田知子)

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